「自分」という物語に向かって「開いた窓」

津村記久子さんの「サキの忘れ物」を読みました。
「サキ」という名前には即座に反応するので、文庫新刊の棚で見つけてすぐに買ってきた物です。いわゆる純文学は細かくチェックしないので、3年前に出ていた短編集の文庫化でした。
表題作「サキの忘れ物」の作品紹介を裏表紙から引用。
自分には何にも夢中になれるものがないー。高校をやめて病院併設の喫茶店でアルバイト中の千春は、常連の女性が置き忘れた本を手にする。「サキ」という外国人の男性が書いた短結集。これまでに一度も本を読み通したことがない千春だったが、その日からゆっくりと人生が動き始める。
本当にこの通りの物語で、大きなひねりやドンデン返しは一切ないシンプルな短編ですが、だからこそ一つ一つのエピソードや描写が丁寧で、心に残ります。
「サキ」は自分が大好きな作家です。
小学生の頃に、学習誌の「怪奇短編集」的な付録で、ポーの「黒猫」などと一緒に傑作「開いた窓」が収録されていました。初読の時の背筋が凍るような思いは今でも鮮明に覚えています。
その恐ろしい作品がサキという変わった名前の作家の物であり、欧米ではO・ヘンリーと並び称される代表的な短編作家である事を知るのは、その後中学生になった頃でした。
その頃には「開いた窓」はそこまで恐怖短編扱いではない事を知り、なんとも不思議な気がしました。90年代半ばには中学校の国語の教科書にも載っていたらしいので、この作品の位置付けはだいぶ変わったという事でしょう。

「サキの忘れ物」で千春が出会う、サキの短編集は「肥った牡牛」「ビザンチン風オムレツ」「開いた窓」が収録されている事と、表紙にサキの肖像がある事から考えて新潮社版に間違いないですね。価格的にも千春が「それでもべつにいいやと思える値段」にぴったりです。
今では新潮社版の表紙も変わってしまいましたが、変わらず気軽に買える手頃な一冊です。

追記
上の写真を載せた後で
「あれー、サキの短編集ってもっと持っていた気がするけどなあ」
と思って探してみたら、持ってました。
幻のサンリオ文庫版の復刊(再編集されてます)のちくま文庫版がありました。

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