長編はたった22冊。
入手困難本は「白の恐怖」(最近復刊)くらいで、それ以外は古書や電子書籍であれば容易に手に入る作家なのに、随分長いことかかってしまいました。
日本の本格ミステリの巨匠中の巨匠、鮎川哲也の長編をようやく全て読み終わりました。
鮎川哲也と言えば「黒いトランク」でしょうが、読んだ当時は「鮎川作品の味わい方」をわかっていなかったように思います。
先日の記事でも書きましたが、とにかく丹那刑事やその作品毎の地元刑事が徹底的に足で調べて、一つずつ可能性を潰していく、そのプロセスこそが鮎川作品の醍醐味です。可能性を潰した先に、犯人は一人しか考えられず、しかしその人物には鉄壁のアリバイがある。
そこまでのプロセスの徹底ぶりと情報のフェアな提出こそが「本格」たる所以です。
そしてその調査結果を読み込み、鬼貫警部が僅かな違和感を感じる。そして彼が全てをもう一度調べていくと言う構成ですから、丁寧に読まねば良さがわからないのです。
「黒いトランク」はそういう意味でも最も複雑で過剰な作品なので、いつか再読しようと思います。
個人的、鮎川作品ベスト5は
「りら荘事件」
「憎悪の化石」
「黒い白鳥」
「死のある風景」
「朱の絶筆」
多分最後の2作は異論ある人、たくさんいるでしょうが、まあ総じて高クオリティな鮎川作品なので。
それにしても「死のある風景」の凶器の移動にまつわるトリック、長野が産んだ偉大な本格推理作家・土屋隆夫の某傑作の凶器隠匿方法を思い出させました。土屋作品の場合は「なるほど!」と思いつつも「いや、でも現場の刑事はあれ、見逃すかなあ?」と思わないでもないんですけど。